国内女性騎手初1,000勝を達成したママさんジョッキー
女性騎手初の1,000勝を達成した宮下瞳。移転した新・名古屋競馬場で感じるレースの変化や、近年増える女性騎手に思うこととは。
プロフィール/宮下瞳(名古屋競馬所属)
生年月日:1977年5月31日 出身地:鹿児島県 血液型:A型
初勝利:1995年10月24日 名古屋6R ショウワミラクル 2021年11月18日名古屋2R、リアルスピードに騎乗して勝利し、国内の女性騎手として、前人未到の地方競馬通算1,000勝を達成。
移転後の新競馬場ではレースを見るのが面白い
― 厩舎地区のある愛知県弥富市に名古屋競馬場が移転して約1年半が経ちました。新競馬場の馬場はどうですか?
難しいです。開催毎に馬場傾向が違うので、いつも開催前は「明日からどうなるんだろう」って思っています。でも、前残りが多かった旧競馬場と違って、内を空けることが多くなって馬群もバラけるので、見ていても面白いと思います。乗っていてもそうです。まぁ、難しんですけどね(苦笑)。
新競馬場に移転し、不定期でナイター開催も始まりましたが、生活リズムの変化は?
すごく楽になりました。新競馬場は元々トレーニングセンターとして調教で使用していた場所なので、すぐ隣には厩舎や騎手団地があります。これまでは朝の調教を終えると急いで準備をして騎手みんなでバスに乗って競馬場に移動していたんですけど、いまは移動がない分、部屋で体をゆっくり休めたり、家事を少しできるのでいいですね。ナイター開催も1レースの発走が14時以降と遅い分、ぐっすり休めるのでどちらかと言うと好きかもしれないです。
宮下騎手には2人の息子さんがいますから、自宅での時間が長く取れるのは嬉しいことですね。そういえば以前、ご長男は騎手になりたいと仰っていましたよね?
照れ隠しなのか、聞いても「やってもいいけどー。ま、騎手になろうかな」みたいな返答です(笑)。興味はあるみたいで、主人(小山信行元騎手)が月に1回、友人の乗馬クラブで子どもたちに乗馬を教えています。
ご次男は宮下騎手1000勝セレモニーの後、興味津々にムチやヘルメットを手に取っていましたね。
自分からヘルメットを取って被っていました。珍しかったです。
「なんとか来年は」年間100勝への思い
2021年11月には地方通算1000勝を達成。国内女性騎手では初の快挙でしたが、時間が経った今どう感じますか?
自分でも達成したいと思っていましたし、周りの方もずっと応援してくれていたので、ひと区切りはできたのかなと思います
その前年には年間100勝も達成されました。名古屋開催では毎日、ほぼ全レースに騎乗していて、関係者からの信頼の厚さを感じます。
私にとって年間100勝は大きな出来事でした。また達成したいと思っているんですけど、21年が96勝、22年が93勝。今年はその半分くらいの勝ち鞍で、なんとか来年は、と思っています。たくさんの騎乗依頼もいただいて感謝です。いま、調教は深夜1時前から1日に約25頭に乗っていて、レースで騎乗するのも調教で乗っている馬たちがほとんどです。
そうした騎手人生でターニングポイントとなった馬は?
やっぱりポルタディソーニですね。復帰後に出会って、重賞4勝。私に競馬を教えてくれました。賢くて、スタートが上手で二の脚もあるのでいいポジションが取りやすかったです。ピリピリとした元気のいい子なんですけど、オンオフの切り替えが早くて、レース前になると自分で気持ちをレースに持っていっていました。あのちっちゃい体のどこからこれだけのパワーが出てくるんだろうって思うんですけど、最後まで一生懸命走ってくれる子でした。
昨年、重賞・ベイスプリントを勝ったエッシャーも同じ厩務員さんが担当されているらしいですね。
エッシャーくんはスタートが上手で、ラストもちゃんと伸びてくれてすごい馬です。今年2月の梅見月杯の後に骨折してしまって、そこから馬体重が減ってしまったので、いまは一生懸命戻そうとしているところです。もう一度復活してくれるといいんですけどね。
女性騎手の騎乗フォームに感じたこと
地方競馬全体で見ると、女性騎手は別府真衣騎手(高知)や岩永千明騎手(佐賀)が引退して、いまは8割が20代。一気に新しい世代が台頭してきましたね。
ホントそうですね。その中でも濱尚美騎手(高知)は園田競馬場に期間限定騎乗で行って、騎乗フォームも綺麗になったと思います。すごいですよね。
JRAも女性騎手が6名に増えました。彼女たちがJRA交流レースで名古屋競馬場に乗りに来ることも多いのでは?
永島まなみ騎手はよく乗りに来てくれます。スタートが上手で、ソツなく乗ってきますよね。最近は豪快でカッコいい乗り方をしていて、ここ半年から1 年でグーっと伸びた印象です。
騎乗フォームで言うと、宮下騎手が目標にする騎手は?
今村聖奈騎手が綺麗だと思います。女性版の武豊騎手みたい。道中の騎乗フォームも追い方も、ブレなくて綺麗だなと思います。同じ女性として「おぉー、いいな」と思ったのは初めてかもしれないです。
さて、改めて2023年を振り返ってください。
今年2月頃に調教で落馬して肩を怪我してからダメで……。最初に行った接骨院では骨折などは見つからなかったんですけど、すごく痛かったので大きな病院で検査をしたら「骨折をした跡があります」と言われました。怪我をしてからすでに3〜4カ月経っていて、それからなかなか本調子に戻りません。ずっと治療は続けているんですけど、四十肩や五十肩も混ざってきているのかも(笑)。
まだまだパワフルな騎乗を期待しています。これからの目標は?
まずは怪我しないようにすることと、また年間100勝を達成したいです。それと、最近は重賞を勝てていないので、そういう馬に巡り合って勝てたらいいなと思います。これからも目標を達成できるように頑張りますので、オッズパーク会員の皆さんも応援よろしくお願いします。
ありがとうございました。
土古(どんこ)と呼ばれた旧競馬場では内をすくう競馬が大きな武器だったが、2022年4月の競馬場移転に伴い変化が生じている。やはりその一因は内の砂が深い現在の馬場傾向だろう。本人も乗り方の変化についてこう話す。「以前は内をすくう競馬が好きでしたけど、いまは外目の枠が好きです。人気馬で内枠が当たっちゃうと、『あぁ、無理かも……』と思います。今の馬場はインを空けて乗るので、早めに外に出さないといけなくて難しいです」。女性騎手の2キロ減を生かして逃げ粘る競馬も引き続き見られるが、最内枠を引いた際にはデータ上からも割り引いた方がよさそう。対して、7枠と8枠から逃げた場合の勝率は30.6%にグンと上がる。今年の勝率が6.7%だから、いかに好成績かが分かるし、単勝回収率263.1%というのも見逃せない数字だ。
また、外から差す競馬も増えた。新競馬場の直線はゴールまで240mと長くなり、外差しも決まるようになっている。宮下騎手の場合、差し馬に限っては牡馬よりも牝馬の方が勝率や連対率などがいいことに加え、良馬場の方が差しが決まりやすい。
よって、現在の宮下騎手の買い時は下記の通り。
・外枠の逃げ馬 ・良馬場で牝馬の差し馬 ・最内枠は割り引き
※データは2023年1月1日~10月6日(名古屋競馬場のみ)
【撮影・聞き手】大恵 陽子(競馬リポーター)
競馬リポーター。
コメンテーターなどとしても競馬番組へ多数出演。小学5年生から地方競馬に心酔し競馬ファン歴25年。神戸市出身で園田競馬場をホームグラウンドとして活動。