安藤 勝己/プロフィール
元騎手・競馬解説者。愛知県出身。
1976年に笠松競馬場でデビュー。通算19回のリーディングを獲得。「アンカツ」の愛称で全国的にその名を知られた。2003年に中央競馬へ移籍。以降、JRA所属馬で数々のG1を制した。
2013年に引退。通算成績は20,852戦 4,464勝(地方・中央含む)。G1勝利数は28勝(中央22勝・地方交流6勝)。

各競技で一線級で活躍された元騎手・選手を招き、プロの視点から見た、レースや予想のポイントを徹底解説していただきます。

 笠松くらい小回りになると、やっぱり先行馬有利だね。1周1100mでしょ、あんまり後ろからじゃ届かないね。とはいえ、スタートからコーナーまでもそんなに距離があるわけじゃないから、実際に乗っていてもある程度の位置取りが決まったらなかなか動けない。早めに動くか、前にいるか、という風になっちゃうから、どうしても先行馬が有利になるよね。そうすると、前に行くには内枠が絶対に有利。外からじゃ、それ以上の脚を使わないと前に行けないからね。テンに速い馬で内枠に入ったら「よしっ!」って思うもん(笑)。
 園田(1周1051m)もそうじゃないかな。笠松と似た小回りコースで、コーナーで仕掛けると外を回らされるだけだから、向正面の直線部分で仕掛けないといけない。地方競馬はそういう競馬場が多くて、金沢(1周1200m)や、佐賀(1周1100m)もまあそういうところはあるね。
 反対にさ、そういうコースで後ろから来る馬はかなり強いと思うよ。オグリキャップなんかもそんなに前に行く馬じゃなかったけど、笠松でみんなまとめて捲って勝つような馬だった。JRAに行ってGIも勝ったもんね。小回りでは脚を余して負ける馬が結構いるから、広い馬場に行った時に力を発揮できて変わり身を見せる馬もいる。
 それと、最近の地方競馬は内の砂を重たくして、内を空けて走る競馬場が多い傾向にあるよね。例えば、名古屋は弥富トレーニグセンターに移転して、内を空けて走るようになっている。昔は笠松と似たような馬場だったけど、今はだいぶ変わって逃げ馬でも内ラチから3頭分くらい空けて走ったりしているから、昔のレース傾向とはだいぶ変わっているよね。

 園田は騎手によってはとんでもないところから早く捲っちゃうジョッキーもいるよね。笠松と同じ小回りコースで、1230m戦ではスタートしてからコーナーまであまり距離がないから、そういう点では園田も内枠有利だと思うな。だけど、園田の場合は2コーナーを回ってすぐに後方から仕掛けてくるから、前に行った馬にとっては力がないと忙しくて潰されちゃう。早仕掛けをした馬が粘っちゃったりもするから、そういう競馬も多くなるんだけど、やっぱり忙しくなるよ。3コーナーで簡単に捲られちゃうこともあるし、前に行った馬で息が入らなくて終わっちゃう馬はいっぱいいる。それが馬券的にも面白いポイント。だから、ジョッキーの特徴は掴んでおいた方がいいと思う。
 全国リーディングの吉村智洋騎手はやっぱりそういう競馬をするんじゃないのかな。結果を出すジョッキーは、ちょっと強引なジョッキーが多いでしょう。JRAに移籍した岩田康誠騎手も園田にいた時はそうだったからね。JRAで乗り始めた当初もそういう早めに動く競馬をしていて、俺に聞いてきたことがあった。「動き出しが早いから、直線で苦しがるよ」って言ったのは覚えている。まぁ、いずれにしてもちょっと強引な競馬をする騎手が園田や小回りの地方競馬では合うってことだね。
 それと園田で言うと、内の砂をそこまで重くしていないよね。見ていてもあんまり外を回している印象がないから、そこは他の地方競馬場とは異なるポイントかな。

 パドックで馬を見るとしたら、地方競馬の小回りは馬体がちょっと四角いようなフォルムをした、力馬みたいな馬がいいんじゃないかな。馬体の幅がしっかりあって、脚がちょっと短くて、パドックでの歩きは少し硬いくらいの方が合うよね。いわゆるピッチ走法の馬。
 俺はJRAに行って馬の見方がガラッと変わったんだけど、JRAのダート馬はゆったりとした歩幅の大きい馬が多い。そうじゃないともたないし、長い脚も使えないからね。でも、地方競馬だとそういう馬はエンジンがかかった頃にはコーナーになってしまう。地方は砂が深いし、小回りとなるとちょっと硬いくらいの歩きをする馬がいいよね。佐賀競馬の調教師で「馬体重が重すぎず、ピッチ走法の馬の方がいい」という人がいるらしいんだけど、それはあると思うよ。JRAのような広いコースを走る馬と、地方競馬の小回りコースを走る馬とではパドックの見方を変えた方がいいんじゃないかな。パドックは現地に行かなくても、ネットで気軽に見ることもできるしね。

 高配当を狙うには、当然のことながら人気薄の馬を馬券に絡めることになるが、やみくもに人気のない馬を狙っても的中率は上がらない。人気がなくても走りそうな馬を探すには、前走、前々走で、人気上位にもかかわらず凡走した馬をチェックしよう。そしてその敗因を探ってみる。能力通りに走っての凡走なら次もあまり期待はできない。しかし、出遅れだったり、他馬から不利を受けたり、明らかな敗因があるなら巻き返してくる可能性がある。専門紙のコメントなどに書かれていることもあるが、ぜひとも過去のレース映像を見て、自分で敗因を探ってみることをおすすめする。また、距離や枠順など不得意な条件で負けたにもかかわらず人気を落とし、その条件が好転しているような場合も狙いになる。
 ちょっと気の長い話になるが、自分の好きな馬をつくって、パドックとレースを欠かさず見続けるのもいい。今の時代、ネットで簡単にチェックできるので。そうすることで、どんな時に走って、どんな時に走らないかが見えてくる。「走りそうな条件なのに、なぜこんなに人気がないの?」と思うことがあれば狙いだ。それにより、逆に危うい人気馬が見えてくることもある。「この条件、この相手関係で、なんでこんなに人気になってるの?」という馬がいれば、思い切ってその馬を切って、手広く狙ってみるのがいいだろう。
 

斎藤修/プロフィール
1964年生まれ。NAR(地方競馬全国協会)が発行していた「Furlong(ハロン)」で編集長を務める。現在は、NAR公式サイト「WebFurlong(ウェブハロン)」、雑誌「優駿」、「週刊競馬ブック」など地方競馬を中心に記事を執筆。