いつまでも妥協することなく進化し続けたい

大の競輪好きで知られる競馬界のレジェンド・武豊騎手と、競輪界の若きスター・古性優作選手が、これまでの道のりやプロフェッショナルとして挑む心の持ち方、年末の大レースに向けての意欲などを大いに語り合います。

― 今回が初対面という二人のビッグな対談ですが、いろいろお話を聞かせていただきます福原直英です。よろしくお願いします。
競技を目指したきっかけ
古性優作選手(以下、古性): 小さい頃から自転車が好きで、BMXという競技をやっていて、オリンピック種目になったことで、そこを目指していましたが、海外遠征など金銭面的にも相当負担が厳しくて、最終的には断念しました。競輪の世界に入って、最初はBMXと競輪の二刀流を目指していた時期もありましたが、BMXでは主に瞬発力、競輪では持久力が求められるのですが、使う筋肉が違うので体型がすごく変わってしまって。BMXに乗れなくなってきたことで、競輪にだけ集中しようと思いました。
武豊騎手(以下、武): 僕は父が騎手だったのでその影響で。子供の時から僕も競馬が大好きで騎手になりたいなと思っていましたし、よくスタンドに見に行ったりとかもしましたね。でも、実際にジョッキーになってコースに入った時は、すごく不思議な感じで。ずっと競馬をスタンドから見ていたので、その景色が逆になった時の印象は、今でも忘れられないですね。
― やはり見るのとするのはかなり違いますか?
古性: 競輪選手になろうかなと思っていた時に、何回か実際に見に行ったことがあるのですが、金網の外から見ていた時は、タイヤや車輪の音が凄くて、見ていて「怖いな」っていう位だったのですが、自分が走る時には、風を切る音で車輪の音が掻き消されて、逆に聞こえなくなるので、走っている方が怖くないと感じます。
武: 風を切るのは競馬も同じですね。競輪も競馬も時速60〜70キロ。大体同じくらいのMAXスピードですよね。
競輪学校時代からデビューまで
武: BMXと競輪って、本当似ているようで違う競技ですが、どんな感じですか?やっぱり競輪学校に入った時は、生徒全体の中でも速い方でしょ?
古性: いえ、もう全然1着取れなかったです。全体で生徒が80名ぐらいいたのですが、大体40番くらいの順位でした。やっぱり高校生から専門にやってきた子が多くいるので、レベルが高すぎて、これは「無理かも」みたいに思っていましたね。競輪学校でレースがあるんですけど、自分のタイムとかを見て、速い選手と比較すると全然違っていて、そこまでたどり着けるイメージは、全く湧かなかったです。
武: なんか、BMXで優勝されているし、鳴り物入りでみたいなイメージかなと思っていました。
古性: 競輪学校の段階で、レベルの高さを感じていたのに、デビューしても余計実力の差を痛感するという感じで。だから、本当にコツコツやっていくしかないと思いましたね。
武: 競輪選手デビューは、いきなり完全優勝でしたよね?僕はその記事覚えてますよ。
古性: デビュー戦は完全優勝しましたけど、もう多分、次勝たれへんやろなっていう。優勝したことによって、勝てない感覚というか、今のこの実力で勝っても意味がないっていうか。勝負の世界はそんなに簡単なものじゃないっていう風に思いました。そうしたら、次はやっぱり勝てなくなっていって、当分の間、優勝できませんでしたね。
― なぜそう感じたんでしょうね?
古性: BMXをやっていた時から、今日勝っても、簡単に次勝てるものじゃないというのは、自分の中でずっと感じてきたことだったので、やっぱり勝負の世界は簡単じゃないなと。デビューして完全優勝しましたが、逆に落ち込むというか、次からやばいなみたいに思いました。だから、トレーニングもしっかり継続できたのかなと思います。
― 競馬はそういうことはありますか?
武: いや、それは聞いたことがないですね。競馬は結果によって、波に乗っていくようなイメージかなと思います。
自分のストロングポイント
古性: メンタルの波は少ない方だと思います。優勝しても負けても、そこの波はあまりないようにできるようになったというか。そこがストロングポイントだと思います。普段からトレーニング意欲が減ることもないですし、ずっと継続できる強さというか、多分、元々生まれ持ったものかなと思います。
― 例えば、大一番を前にしても緊張しないですか?
古性: いえ、緊張はしますけど、ワクワクするようないい緊張感というか。ネガティブな緊張感ではないですね。レースになると、ケガをせずによくここまでたどり着けたという思いもそうですし、自分の家族やお客さんに対して、本当に感謝の気持ちで一杯になります。だから、お客さんにしっかり自分のパフォーマンスを見せたい、しっかり出し切りたいみたいな緊張感はあるかなと思います。
武: 本当に素晴らしい方ですね。僕も今後使わせてもらいます(笑)。僕もメンタルの波は少ない方だと思います。どちらかというと、我慢強い方だと思いますね。競馬で連戦連敗することもありますけど、そこで感情的になったり、落ち込んだりっていうのはあまりないですね。
― 競馬の場合は、1日に何レースも騎乗しますし、負けて感情を引きずることはできませんよね?
武: そもそも馬主さんはもちろん、厩舎も違うので、自分の感情を引きずるということは、次に乗る馬や関係者にとっては、関係ないですからね。また、競輪の斡旋と違って、競馬の場合は依頼なので、そこは結構厳しいですね。結果が出せないことで辛い思いをすることもありますし、現実をドンと目の前に突きつけられることもあります。そういう意味でも、割と我慢強い方なのかなと思いますね。
レースに向けての調整
古性: レースは月に2〜3回あるのですが、その間は斡旋の日程から逆算して、治療やトレーニングの予定を組み込んでいくイメージです。練習に関しては、バンクで走ったり、ウェイトトレーニングをしたり、動画でフォームを見たり、いろんな角度から確認しています。たまに、奥さんに乗り方についてのアドバイスをもらうこともあります。やっぱり選手目線でしか見られなくなってくるので、第三者から見てもらって、イメージしたものを伝えてもらったりすることは、自分の中ですごく大事かなと思っていますね。
武: JRAは年間を通して毎週土日開催です。曜日によって大体ルーティーンが決まっているので、月曜日は体のケア、火曜日はトレーニング、水曜日は追い切り、調教に乗って、みたいな。30数年やっているので、何か特別にこう決め込んでるわけではないですけど、やっぱり競輪選手の練習を見ていたら、もう追い込み方とかもすごいですし、大丈夫かなと思うくらい。それに比べると、僕らはまだまだ甘いなというか、楽だなって思いますよね。
― それを聞いていかがですか?
古性: 「トレーニング=しんどい」ってよく言われますが、僕にとって練習は、ストレス発散になってる部分もすごくあるので、逆に練習しないとフラストレーションが溜まってくるので、全然平気です。
― 豊さんは、競輪の村上義弘元選手と親交がありますが、古性選手のお話をお伺いして、いかがですか?
武: 随分前から「大阪にいい選手がいるんだ」と村上選手からよくお話を聞いていたんですよ。「競輪選手としてのセンスの塊」だと、すごい言われていて。まだ古性選手がそんなにレースとかでバンバン勝つ前からですよ。彼が言う選手はどういう選手なんだろうと思って見ていましたね。
― ご自身ではどうですか?そういうセンスがあると思われますか?
古性: センスがあるとは思わないんですが、月2回、大会がある中で波の上下っていうのは、年間戦っていく中で減らさないと厳しいと思うので、メンタル的な部分や、自分の修正の仕方もある程度分かってくるので、そういった部分で戦えてるかなと思います。他にもセンスのある選手は、凄くいっぱいいます。