レース中に考えていること
古性:
スタートから残り2周までは、すごく繊細な時間です。ペダルの当たり方がおかしいなとか、微調整したりとか、骨盤の角度を変えたりとか、手首の角度を変えたりとか。「あれっ、やばい」と思いながら、そのレースが始まることもありますし、良い時は「うわー、進む」みたいな時もあって。グランプリだと周回数が8周と通常よりも3周多いのですが、2021年のグランプリの時は、平原(康多)選手が前にいたのでフォームを見て、真似しながら、「これはちょっと無理かな」と。そのもう1つ前に宿口(陽一)選手がいて、手首の角度がすごく良くて、それを真似したら、「いいやん」となって、グランプリはそれで走りました。
武:
それは、「叩き」(勝負どころで、他の選手あるいはラインを抑えて前へ出ること)だったからでしょう。
古性:
そうですね。普段レースではその人たちを後ろから見ることもないので、どうせなら勉強しようみたいな。宿口選手のがちょうどハマったんで、これで行こうとなりました。
― 競馬ではありますか?
武:
僕らも、普段なかなか一緒に乗らない外国人ジョッキーが来ている時には、鐙の踏み方や手綱の持ち方を見たり、それこそ次のレースでやってみようとかね。
― レース中の駆け引きについてはどうですか?
古性:
ルール上、抜いていい地点までの周回は、自分のことに集中していく感じなんですけど、そこからは、他の選手やラインのことをいろいろ確認しながら乗っている感じですね。
脇本雄太選手・近畿勢について
武:
昨年グランプリを制覇した脇本選手の後ろを走る時って、どんな感じなんですか?
古性:
練習でも、若手三人ぐらいが前でダッシュして、そのスピードをもらって捲ってみたいなことを何回も一人で繰り返していたりとかして驚きました。フォーム的にもすごい流線系で、僕ができるようなフォームではないんですよ。足の回転も全然違っていて、同じ人間かなと思うくらい一人だけレベルが違いすぎますね。だから、最初は脇本さんに着いて行けることを目標にしていたんですけど、倒せるぐらいの実力がないと、脇本さんについて行っても、自分の仕事ができないなっていうのを凄く感じましたね。
武:
脇本選手も凄いけど、村上選手が、「優作の後ろは面白くてしょうがない」って言っていましたよ。読めない動きをするから、全神経ちょっとでも油断したら、置いていかれると。でも、話に聞いていて、何かそういうのをすごい楽しんでる感が伝わってきました。
―今、豊さんからご覧になって、近畿勢はどうなんでしょうか?
武:
もうすっかり顔というかね、競輪界を引っ張る立場ですよ。若手もどんどんいい選手が出ていますし、なんかいいなと思いますね。仲間であり、一緒に勝ち負けを競い合うライバルみたいなところがなんかいいなって思います。先輩が後輩をちゃんと指導したり、教えたり。後輩は、先輩の走りを見て、頭角を現してくると、見ていていいなと思いますね。走り方やレースの仕方があの先輩に似てるなとか。そこは競輪のファンからしてもいいところだなと思いますね。
古性:
先輩たちと良い連携ができて、ワンツーとか獲れるようになると、信頼関係も生まれていきますし、本当に地区で信頼関係を築いていくことは、非常に大事ですね。僕の中では、10回成功しても1回失敗したら、その信頼もチャラになるぐらいだと思っています。本当にみんなで近畿が強いって言われるような時代が作れたらいいなとは思いますね。

地方競馬の魅力
― 豊さんは、地方競馬のレースでよく騎乗されてますよね?
武:
競馬は2つの団体にわかれていますが、JRAの馬が出走できる交流レースがあって、その日は地方競馬で僕らも騎乗していて、全国の競馬場に行っています。地方競馬は、基本的に平日開催でナイターレースもあるのが特徴ですね。
― 多彩なレースが行われている地方競馬の魅力はどういうところでしょうか?
武:
ダートという砂のレースがメインになるのですが、そういう馬場に向いてる馬がたくさんいますし、先ほどの競輪の地区の話がありましたが、地区同士の交流もありますし、地元に根付いている感じがありますよね。地方競馬はそこが魅力だと思います。
お互いに聞いてみたいこと
武:
奥さんからのアドバイスを聞くということが、ちょっと衝撃的だったんですけども(笑)。奥さんと揉めたりはしないですか?
古性:
それはないです。どうした方がいいかという聞き方はしないんですよ。例えば、大きなレースを前に繊細になり過ぎて、3つのセッティングパターンで悩んでしまった時とかに、レース動画で「AかBかC、この乗り方のどれがいい?」って聞いて、直感で選んでもらう感じです。グランプリの時がまさにそんな感じで、奥さんに選んでもらった設定で出場しました。

武:
俺もジャパンカップの前に奥さんに聞こうかな(笑)。
― 豊さんは奥さんに尋ねたりはしないですか?
武:
1回もないですね。細かいところは見ていないと思いますよ。
古性:
うちもそうですよ。映像では全くわからないですけど、ハンドルを1ミリ上げた、サドルを1ミリ上げたなど、セッティングが異なる映像を見て決めてもらうみたいな感じです。
古性:
僕からも質問いいですか?競輪も他のスポーツでもそうですが、昔と今ではトレーニングの仕方も随分変わったと思うのですが、騎手の方たちはどのような変化がありましたか?
武:
昔は日本の競馬って、国内だけだったので、騎手もなかなか新しいものを取り入れる感覚がなかったんですけど、国際化して外国の騎手が日本で騎乗したり、日本の騎手が外国で騎乗したりするようになって、真似ではないですけど、ああいう感じで乗ってみようかなとか、そういう部分では、かなり進歩はしましたね。トレーニングもそうですし、トレンドみたいなものがあって、今こういう乗り方しているとウケがいいというか、騎乗依頼が増えたり。だからそっちに寄せていく騎手もいたり、頑なに自分のスタイルを貫く人もいます。
古性:
競走馬に関してはどうですか?
武:
模索しながらですけど、みんないろいろな工夫をしてますね。やっぱり、結果が出てる厩舎の調教を真似したり。最近結果が出ていないとなったら、ガラッと調教を変えてみたり。コースでの調教と坂路(坂道)の調教の割合や、距離を変えたりして、みんな探しながらやっていますよね。近年は走破タイムも速くなってきて、長距離を走る馬たちも坂でビシビシ鍛えて瞬発力をあげたり。昔はあまりなかったかもしれないですね。

年末のビッグレースに向けて
―
年末に大一番が控えています。競輪ではKEIRINグランプリ。競馬では有馬記念。もうKEIRINグランプリは豊さん、第二の主戦場で(笑)。
武:
1年の締めくくりですからね。最後の大仕事です。
― 古性さんにとって、グランプリに乗るのは違いますか?
古性:
はい。やっぱりお客さんの数や熱気もすごいですし、走っていて気持ちがいいなっていうのはありますね。
― 競輪をあまり知らない方もご覧になってると思うので、古性選手からKEIRINグランプリのPRをお願いします。
古性:
精一杯自転車を漕いでレースをする中で、一人ひとり選手の人間味を感じることができると思いますし、ラインの絆の深さであったり、競輪の良さが最初は難しいかもしれませんが、観ていくとわかってくると思うので、ぜひ観てもらいたいなと思います。KEIRINグランプリに向けて、毎日妥協することなく、しっかりトレーニングして臨めたらいいなと思います。
― KEIRINグランプリは今年も12月30日に行われます。ぜひバンクでお楽しみください。競馬もビッグレースが目白押しですね。
武:
競馬もGⅠレースが続きますし、年末には有馬記念もあります。ファンに喜んでもらえるレースをして、勝てたらいいなと思っています。
―
お二人の活躍にも注目しつつ、競輪、競馬、そしてオートレースをオッズパークでお楽しみください。武豊騎手、古性優作選手、どうもありがとうございました。

インタビュアー 福原 直英氏
元フジテレビアナウンサーで同社を2022年3月に退職。武豊騎手の個人事務所「テイク」と業務提携。 CSフジテレビONE「武豊TV!Ⅱ」の司会を務める。幅広い分野で競馬全般の仕事を行っている。