ターニングポイント
武:
一番最初にそれを感じたのは、オグリキャップとの出会いです。当時は競馬ブームと言われた時代で、まだデビューして3年目くらいだったんですけど、オグリキャップで有馬記念を勝てたことで、やっと周りの皆さんに認めてもらえたかなという実感があったので、そこは大きかったと思いますね。
古性:
僕は2021年の2月ですね。グランプリに出場する選手と賞金では少しの差しかないんですが、そこが埋まらなくて、このままではダメだなと思って、1ヶ月間レースがなくなった時期に、フレームを変えたり、乗り方もいろいろ変えて、試行錯誤しました。それから3月に復帰して、凄く手応えを感じるようになって。そこからですかね、勝負できるようになったのは。
― 素人にはきっとわからない微妙なところですよね?
古性:
そうですね。例えるならば、今までは乗用車みたいな進み方でしたが、今はトラックみたいにブオーンっていう進み方になりました。もちろんそのスピードを立ち上げるためには、パワーも凄く必要ですけど、今までとは明らかに違う感覚でしたね。
― ジョッキーはいろいろ工夫されているんですか?
武:
そうですね。まだまだフィジカル的にも、道具などでも進化できる部分があると思っていますね。今は独自の鐙(あぶみ:鞍の両側に下げ、騎乗時に足を乗せる馬具)を使っていますが、今まで何でやってこなかったんだろうという程、すごく騎乗が楽になりましたね。自分が楽だと、馬も楽なんじゃないかなと。そういう部分で何か変えていけないかな?っていうのは、常に考えたりしてますね。
― 競輪選手の場合は、楽に追走するっていう何かはありますか?
古性:
表現が難しいんですけど、僕はしんどく乗りたいです。常にチェーンが引っかかっているような状態で乗りたいので、細かい筋肉をすごく使いますが、ちゃんとトラクションをかけるイメージで。それをしたら楽になるみたいな。

競馬・競輪の共通点
古性:
「お客さんのお金がかかっていること」です。お金を払って野球を観戦するのとは全く別ですし、お客さんに僕たちを買っていただいているので、そこは普通のスポーツとはもう全然違うかなと思います。武
同じですね。「ファンあってこそ!」。お客さんが車券や馬券を買ってくださって、それで成立してますからね。まあ僕も車券は結構買っているんですけど(笑)。皆さん大事なお金をかけてくださっているので、そこは必ず意識しなきゃいけないなと常に思っていますね。
― ちなみに豊さんは、競輪の予想をどう組み立てているんですか?
武:
えー、いろいろありますよ(笑)。競輪選手の前だと言いにくいですよね(笑)。競輪は、考える要素が凄くたくさんあるし、他の競技にはない競輪独特のラインだったり展開ですよね。それが競輪の醍醐味の1つじゃないかなと思いますね。また、本人が走っているので、その人の人間性や気持ちが見ていて伝わってくる時があるので、そこは面白いなと思いますね。いつも思うんですけど、競輪場から帰る時に、「単調なレースだったな」とか、僕らファンって勝手なことを言いますよね。それを聞いた時に、僕自身もやっぱりいいレースを見せなきゃなっていうのは思いますよね。
― 今の言葉を聞かれていかがでしょう?
古性:
本当に自分ができることを精一杯、力を一滴も残さないようにレースにぶつけるということが大事かなと思います。自分の力を出し切らなかったら、お客さんも納得してくれないだろうし、やっぱり勝ち方にもこだわりたいですね。
武:
負け方もあるよね?例えば外れても、いいレース見せてもらったと言ってもらえる時とか、よくありますからね。だから騎手仲間でも、誰か1人しか勝てないんですけど、馬もすごくいいメンバーが揃ったし、いいレースにしなきゃっていう話もしますしね。

体調管理について
古性:
基本的には、自分が動きやすくて、一番パワーが出るっていうベスト体重にしたいのですが、あまり体重計に乗るのは好きじゃなくて、体重を気にして調整するというよりは、腹筋の力の入り方とか、自分の感覚で決めるという中で食事やトレーニングをしています。
― よく巷で言われているのは、豊さんは手首の太さで、自分の体重がわかるそうですが?
武:
まあ、曜日とかもあるので一概には言えませんけど、今この感じだと何キロかなというのはありますね。
― 豊さんの場合は、極端に減量するとかはなくても、食べる量は気を付けますよね?
武:
そうですね。体重制限はあるので、気にはなっていますけど。減量はしていないですね。どちらかというと減量は苦手な方なので。でも、騎手の中には毎週3〜4キロ落としてみたいな人もいるので、そう思えば自分は恵まれているというか、あまり増減はないですね。
― 競輪選手の場合は、レースに備えて余分なものを削ぎ落として臨む方はいますか?
古性:
いますね。ただ、短期間ではなくて長期的なイメージです。例えば、5月に大きな開催があったら、3月ぐらいから、そこに向けてちょっとずつ減らしていくとか。短期間で減らすと出力がなくなってしまいます。

トレーニングについて
― 古性選手にとって一番重要な筋肉は、どこですか?
古性:
お尻やハムストリングですね。
― トレーニングの方法は?
古性:
ウェイトトレーニングなど下半身が中心ですが、補強みたいな形で懸垂や腕立て伏せなど、上半身もしています。
― 豊さんはいかがですか?
武:
ウェイトトレーニングとか、ハードなものはなくて、バランスとか体幹を重点的にやっています。僕は54歳なので、若手とはメニューが違うと思いますし、どちらかというとキープできるようにとか、少ない動きで力を伝えるとか、そういったトレーニングを考えてもらったり、相談しながらやっています。昔は、馬に乗るのがトレーニングだと先輩にもよく言われて、何もやっていませんでしたからね(笑)。
― 古性選手は、どういった時に肉体改造を行うんですか?
古性:
例えば、このギアを踏みたいから、体重を減らしたり、増やしたり。こういう乗り方がしたいから体重を増やすといった時ですね。

レースの作戦について
― お二人は、いわゆる 「決め打ち」や「出たなり」ということはありますか?
武:
レースは本当に生き物なので、同じメンバーでも枠順でも、同じレースはありませんからね。レース前に理想はこうだと考えては乗りますが、その通りになるとは思っていませんし、スタートが出遅れる時もあるので、自分が考えた全部がうまくいかなかった時も考えて、結局最後は「出たなり」にはなりますね。また、「決め打ち」というか、人気のない馬で実力が明らかに劣っている場合、その馬が勝つにはこう乗るしかないだろうという、いわゆる大振りみたいなこともありますが、基本は全部決めているわけではないかな。
古性:
全く一緒ですね。大雑把には決めていますが、競輪はラインがあるので、ある程度予想はしやすいところもありますし。大体こういう風に動いてくるかなとか。理想はこうだけど、無理だったら流れでみたいな感じで、作戦は決めています。
― もちろん、ライン同士の駆け引きもありますよね?
古性:
そうですね。その辺りが難しいので、出てから流れで、柔軟に走りたいと思っています。
若手の頃からそういう心がけはしていたんですか?
古性:
若手の頃は後ろからとか、先行態勢に入ったりとか、自分がしたいレースをしようとしていました。だから、スタートから全力で行って、もう駆けられないみたいなこともありましたけど、今はしっかり柔軟に走って、ラインで決められるように走りたいっていうのが第一ですね。
― レースだと、よく僅差の鼻差の勝負であったり、タイヤ差とかありますが、そういう勝負強さというのは、 お二人は持っていると感じますか?
武:
僅差の時に強いとかいう意識は特にないですね。逆にそれが弱いっていう意識もないけど。僕はあまりないですね。古性 僕もそうですね。僅差で勝っている記憶の方が少ないですね。
― 競輪の場合、「ハンドルを投げる」と聞いたことがありますが、効果はあるんですか?
古性:
あると思いますね。上手な選手がいます。僕は体が硬い方なので、得意ではないですけど。
― 競馬の場合は?
武:
走るリズムがあるので、そこが丁度合えばラッキーだし。この部分は、自分で何かできるところではないのでね。みんな最後の数センチをクローズアップしますけど、そこまでどう乗ってきたかの方がもっと大きいですからね。
― 競輪選手は最後の直線を向いたところは、もう気力も体力も全部だし尽くすようなイメージですか?
古性:
そうですね。ヘトヘトになりながらも、それでもフォームが崩れないように意識しながら、そこの難しさはありますね。
武:
だって、3日とか連続で走るんですよ。馬でも1回走ったら、何週間か何ヶ月か休むのに、3日連続で乗るというのは、本当にすごいことですよ。
